2010.02.10
JGU
エッセイ部門 大賞 桜の花の下で
永田美津江 さん(静岡県・85歳)
早朝の電話が、急かせるように鳴った。
ゲートボールの友人からだ。「突然だけど、今から志戸呂公園に、これないか」という誘いである。私は、心弾ませて島田チームに連絡する。愛好者が集まってくれた。大井川の新大橋を渡り、マイカーで十五分の場所に着いた。そこにはゲートボール用のコートが整備されていた。
桜が、見事に咲いている。
枝が、縦横無尽にのびて木漏れ日が僅かに差す花の下で、ゲートボールの交流会を楽しんだ。
四月一日。春らんまん「夢のようだね」と歓声を上げた。此処に、見事な桜公園とゲートボール場を残してくれた当時の人々に感謝、感謝。満面笑みの一日を満喫した。
現在は、スポーツの多様化に伴い会員が減少しつつある中、作戦の醍醐味に惹かれる愛好者の熱は健在だ。六十代から、九十代の幅広い年齢層が楽しめるスポーツは、ゲートボールの特権のように思える。
「ごめん、ごめん、又失敗しちゃった」と、すみれちゃんの、はにかんだ頬に、ひと粒の涙が光った。
「平気だよ、その分こんどは、いいボールを送ってくりょう」、イケメンで島田訛りを、まる出しの松田さんの笑顔が助ける。
好プレーも、失敗も互いに助け合える人情と優越感が、ふつふつと湧き上ってくる。
「ゲートボールに乾杯」
これからも、後輩に、いいプレーを残したいと、私は八十路も後半の身を楽しんでいる。
スポーツをさがしている皆さん、ゲートボールのお仲間になりましょう。私は、桜の花に声をかけた。花万朶(はなまんだ)は大きくゆれて、「健康を楽しみなさい」と桜色の声を放ってくれた。
「来年も、この場所でこの桜に会いましょうね」、金谷チームと島田チームは約束を結んだ。
♪一人じゃないって素敵なことね♪
遠い日に聞いた歌をハミングしながら公園を後にした。
明日も晴れるか西空は、絵にみるような夕焼けが輝いていた。
ゲートボールは、今に生きる私に、ぴったり寄り添っている。
受賞のことば
とてもうれしい、今日一日幸せな気持ちです。人間の心をつかむことができるゲートボールは人生劇場そのものだと思います。それだけに、やり甲斐のあるスポーツです。チーム編成の中で、もめたり、喜んだり、喜怒哀楽のコミュニケーションの大切さを学びました。文武両道のスポーツにぴったりの今回のコンテスト企画に感動しました。
選評
電話の音からはじまる巧みな構成、土地の言葉を交えたイキイキとした話し言葉などにより、ゲートボールのある日常や季節感が繊細な感覚で瑞々しく描写されています。