2010.02.12
JGU
エッセイ部門 入賞 自分らしくあるために
中野直美 さん(北海道・43歳)
「あなたは何年生なの?」、少年団の子供達に混ざって町内の大会に参加した時に、対戦チームのマダムにかけられた言葉だ。
三年前、長男の中学入学を機に私は三人の子供を引き連れ、町のゲートボール少年団の門戸を叩いた。運動が苦手で人付き合いが下手な子供に、部活の代わりになる何か打ちこめるスポーツを経験させようと思ったからだ。何度が一緒に練習に参加しているうちに、子供以上に私がゲートボールに夢中になっていた。
その日の天気や使用するコートのくせ、スティックの種類、自分の体調や気分によって球のコントロールは面白いように変化する。雪かきや力仕事をした後の練習では必ずといってよいほどアウトボールになるし、大きな大会に出場する時は緊張しすぎて第一ゲートを一発で通過できる事はほぼない。心拍計をつけて試合に出た時は、自分の打順の時の数値が二百を越えており驚いた。
少年団のメンバーが少しずつ増えていくにつれ、同じようにゲートボールの魅力に取り憑かれたママさんが増え、ママさんチームとして大会に参加できるようになった。
ママさん達は皆子育て世代で悩み多き年頃である。反抗期、思春期の子供へのベストな対応、若い頃とは異なる体調の変化、ライフステージ変化に伴う働き方の変更など数え上げればきりがない。そんな悩み多き状況でのプレイはどうしても精鋭を欠いてしまう。すると自己嫌悪に陥り、子供の少年団卒団を機にゲートボールから遠ざかってしまう恐れがある。そうならない為にも、普段からお互いに困った事が無いか声をかけ合って相手を気遣う雰囲気を大切に練習をしている。昨年までにメンバーのほとんどが2級、3級の審判資格を取得し、子供がゲートボールをやめても、親はやめるといろいろもったいないなと感じる体系が出きあがった。
技術面はなかなか向上せず試合には負け、ゲートを通れなかったり初歩的なミスをしてもなぜかゲートボールは楽しい。どれだけみっともないミスをしても、ママさんメンバーが笑顔で「ドンマイ」「よくあるよ」「次に期待してる」と声をかけ、不安を取り除いてくれるからだ。
試合に出れば、冒頭の様にマダム達が嬉しい勘違いで若い気分でいられる。子供達は学校に行きたくなくても、ゲートボールの練習には行きたいという。親子共々、ゲートボールは自分らしくいられる居場所となったのだ。
世代の垣根を越えて、いろいろな人と出会う事ができる。相手の事を考え、自分を見つめ、先を読み、五人のメンバーがお互いの思いを球にこめ、つなげていくゲートボール。
スポーツとしてだけでなく、人と人との心の触れ合いを楽しめるこの球技は、個人化、孤立化の進む現代に必要な特効薬になるのではないかと思う。
そんなことを考えていると、ママさんチームのメンバーからメールが来た。ランチのお誘いかと思ったら、
「次の大会のユニフォーム、何にする?」
これだからゲートボールはやめられない。